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東京高等裁判所 平成7年(行コ)142号 判決

控訴人(原告) ヤマザキ・シー・エー・株式会社

被控訴人(被告) 浜松西税務署長

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成二年一二月一七日付でした控訴人の平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度にかかる法人税の更正(異議決定による一部取り消された後のもの) のうち、所得金額三億四五九〇万六一七五円、納付すべき税額一億三〇〇三万五六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一項と同旨

第二事案の概要等

本件の事案の概要は、次のとおり付加するほかは、原判決「第二 事案の概要」(原判決書三頁五行目から四四頁二行目まで)のとおりであり、証拠関係は、本件記録中原審及び当審における証拠関係目録記載のとおりであるから、それぞれこれらを引用する(ただし、原判決書七頁二行目の「被告所部職員」を「被控訴人所属職員」に改める。)。

一  当審における控訴人の補足的主張

1  控訴人の経理処理について

被控訴人は、簡易課税制度、納税義務の免除、限界控除制度、帳簿方式、控除対象外消費税額等の例をあげて、このような種々の不整合を内在させて消費税制度が成立しているから、消費税を通過勘定として取り扱わない経理方式を排除してしまうことはできないとの主張する。しかし、そのような主張にもかかわらず消費税が通過勘定であることを本質とすることは否定できない。少なくとも、控訴人のように、簡易課税制度、納税義務の免除、限界控除制度、控除対象外消費税額の制度の適用ないし発生のない通常の事業者の場合については、消費税はあくまで通過勘定であってそれ以外の何物でもない。

ところで、国税庁長官通達直法二―一「消費税法の施行に伴う法人税の取扱いについて」(以下「消費税通達」という。)は、消費税の経理方式として、「税抜経理方式」と「税込経理方式」とを掲げている。しかし、そもそも、売上等の収益に係る消費税は売上先からの預り金であり、仕入先に支払った消費税は仮払金であるから、消費税を通過勘定として経理処理するということは、預り金である消費税額から仮払金である消費税額を控除することである筈である。それが経理処理の方法によって控除できたりできなかったりということが起こり、その結果として消費税の本質を左右するというようなことになることは、到底許されることではない。

また、被控訴人は、二つの経理方式のいずれを適用するのかによって減価償却資産の取得額などに起因して、最終的に算出される課税所得の金額も異なると主張する。しかし、経理処理の方式によってこのような違いが生ずることがおかしいのであり、このような違いを生ずることの合理的な理由は説明できない。事業者にとって消費税はあくまで消費税であって、費用となったりならなかったりという二面性を有しているものではない。減価償却資産の取得価額等、消費税額によって処理の方法が異なる可能性のある事柄について、当該事柄毎に消費税額を含めて計上するか否かを定めれば足りるわけで、その場合、非課税事業者などの例外的な事業者を除けば、通過勘定という性格に基づいていずれも消費税額は含めないとの処理になるべきである。

さらに、前記通達は、売上等の収益に係る取引について税抜経理方式を適用している場合には、固定資産・繰延資産及び棚卸資産の取得に係る取引又は販売費・一般管理費の支出に係る取引のいずれかの取引については、税込経理方式との選択適用ができるとして、「税込経理方式」と「税抜経理方式」との混用を認めている。

控訴人が本件で行った経理処理は、損益計算上の収益あるいは費用には消費税額を控除しない金額で記載したが、仮払・仮受の消費税を清算した金額を損益計算上の諸税公課に計上し、貸借対照表上で未払消費税を計上したもので(ただし、固定資産の取得価額については消費税を含めないで償却や損金の処理を行う)、結局は当期利益に消費税額は影響を及ぼさず、消費税が通過勘定であるという本質に則っている。そして、この方法は消費税を通過勘定として扱う方法であるから、この方法による場合には、本件ショーケースの取得価額は、消費税額を含めない金額で判定し、それが二〇万円未満であるならば少額減価償却資産としてその全額を損金処理することは当然に認められるべきである。

2  控訴人の経理処理と確定決算後の総勘定元帳の訂正について

控訴人は、確定決算後に総勘定元帳の記載を消費税額込みのものから、消費税抜きのものに改めたが、これは単なる表記の異同に過ぎない。控訴人の会計処理は、総勘定元帳の記載を改める以前にあっても、消費税を通過勘定として扱う方法であり、資産の対価ないし費用として扱うものではない。そもそも確定決算における会計処理の方法を確定申告後に変更することを認めないとする確定決算基準とは、法人税法において確定決算による損金経理が要求されている事項についての変更を認めないとするものである。例えば、減価償却費の計算、資産の評価損、少額減価償却資産の取得価額の損金経理についての変更は認められない。ところが、本件では、控訴人は、変更前の損益計算書においても、本件ショーケースについては、少額減価償却資産としてその取得価額を全額損金経理としているのであるから、確定決算基準に抵触するような会計処理の変更はない。

二  控訴人の右主張に対する、被控訴人の反論と主張

1  「税抜経理方式」とは、消費税法三〇条一項に規定する課税標準額に対する消費税額及び同条二項に規定する課税仕入等の税額を、それぞれ仮受消費税及び仮払消費税としてこれらに係る取引の対価と区分する会計処理の方法その他これに準ずる会計処理の方法による経理とされている(法人税法施行規則二八条の三第二項)。ここで、「これに準ずる会計処理の方法」とあるのは、〈1〉たとえば仮受消費税ではなく、預かり消費税として経理する等の勘定科目が異なっていても実質的には何ら変わりない経理や、〈2〉課税仕入等に係る税額のうち経費にかかるものについて税込方式による経理をしても全体として税抜方式によるものと認められる場合などを想定しているものである。そして、前記「消費税通達」の3において、「・・・ただし、法人が売上等の収益に係る取引につき税抜経理方式を適用している場合には、固定資産、繰延資産及び棚卸資産(以下「固定資産等」という。)の取得に係る取引又は販売費、一般管理費等(以下「経費等」という。)の支出に係る取引のいずれかの取引について税込経理方式を選択適用できる・・・」等と規定され、さらにその注書き1及び2で、「注1 個々の固定資産等または個々の経費等ごとに異なる方式を適用することはできない。」、「注2 売上等の収益に係る取引につき税込経理方式を適用している場合には、固定資産の取得に係る取引及び経費等に係る取引については税抜経理方式を適用することはできない。」と規定されているが、これは、事業者の事務の手数に配慮しつつ、全体として税抜経理方式と認められる「税込経理と税抜経理の混用経理」について、その具体的適用関係を明らかにしたものである。

ところで、「税抜経理方式」と「税込経理方式」の考え方の基本的な相違は、消費税を、最終消費者の負担に帰する費用とみるか、法人の負担に帰する費用とみるかということにある。後者では、法人が国に納めるべき消費税額を法人の負担に帰する費用とみるため、売上、仕入に際して授受される消費税相当額もそれぞれ法人の収益、費用と考えられることになり、消費税相当額を含んだ金額で損益計算が行われるとともに、納めるべき消費税額が法人の損益に影響を及ぼすことになる。これに対し前者では、法人が売上に際して消費税相当額を受け取ることは、最終消費者の負担において国に納めるべき消費税を預かったということであり、仕入に際して消費税相当額を支払ったとしても、それは後に預かるであろう消費税の一部を、仕入先等が最終消費者の負担において国に納めるべき消費税分として先払いしたということになるため、消費税が通過勘定となって、仮受消費税と仮払消費税が相殺され、残った仮受消費税額から納めるべき消費税額が支出されることになり、納めるべき消費税額が法人の損益に影響を及ぼすことはあり得ない。

以上のところから明らかなように、全体として税抜方式と認められるためには、その前提として消費税を通過勘定として処理していると認められなければならず、そのためには、仮受消費税と仮払消費税とが相殺されることが必要であるため、会計上、貸借科目である仮受消費税と仮払消費税を両建てしていることが必要であり、右の一方のみが計上されている経理では、消費税を通過勘定として処理しているとはいえないから、全体として税抜方式と認めることはできない。そのため、前記消費税通達においても、仮受消費税のみ、または仮払消費税のみが発生する混用経理は認めていない。

また、全体として税抜経理方式と認められるためには、納めるべき消費税額が仮受消費税から支出され、法人自身の損益には影響を及ぼさないことが必要であるところ、収益等に係る消費税額を税込処理した場合には、納めるべき消費税が損益に影響することがあり得るのに対し、収益等に係る消費税額を税抜処理している限り、仕入等に係る消費税額を税込処理していたとしても、納めるべき消費税額は、仮受消費税と仮払消費税との差額から支出されるため、納めるべき消費税が損益に影響を及ぼすことはない。そのため、前記消費税通達でも収益に係る消費税を税込処理した場合には税抜方式と税込方式との混用は認めていないのである。

これを控訴人の行った会計処理の方法についてみると、控訴人の行った会計処理の方法は、仮受消費税及び仮払消費税が貸借科目として設けられていない上、売上及び仕入等に係る消費税は売上及び仕入等の金額に含まれ、固定資産の購入に伴う消費税は諸税公課として計上されているため、納付すべき消費税額も法人税の損益に影響しているのであるから、全体として税抜方式と認められる混用経理とは到底いえない。

なお、控訴人は、経理処理の方式により課税所得金額に違いが生ずるのはおかしい旨主張するが、今日の会計では、一つの会計事実について二つ以上の会計処理の方法の選択が認められていることが多く、例えば棚卸資産の評価方法(総平均法、移動平均法、先入先出法、最終仕入原価法等)や固定資産の減価償却方法(定額法、定率法)をとってみても明らかなように、どの方法を選択するかによって損益の額が異なってくるということは、いわば常識に属することであって、この点の控訴人の主張には理由がない。

2  消費税の経理処理の方式による課税所得の金額の相違と確定決算後におけるその変更について

「税抜経理方式」と「税込経理方式」とは消費税額の計算方法ではなく、会計処理の方法であるから、消費税そのものの納付金額または還付金額が違ってくることはない。しかしながら、企業利益ひいては法人税の課税所得を計算するに当たっては、「税抜経理方式」または「税込経理方式」のいずれの方法を適用するかによって、前提となる益金または損金の額がそれぞれ異なるばかりでなく、減価償却資産の取得価額に係る消費税額、交際費の損金不算入額に係る消費税額、棚卸資産に係る消費税額、資産の災害損に伴う評価損にかかる消費税額、資産を寄付、低額譲渡した場合などの寄附金の損金不算入額に係る消費税等の要因によって課税所得金額が異なってくる。さらにこのことに起因して、例えば、寄附金の損金算入限度額のように所得金額に対応して定められた税法の規定については、適用される法規の内容も異なってくる。したがって、法人が、いずれの会計方式を採用しているかということは、当該法人の課税所得算定の基礎となる事実ということができる。

ところで、法人税の課税標準たる所得は種々の会計上の事実(取引)から構成されているが、この会計上の取引には、売上、仕入、給与の支払などのような客観的事実に基づく取引(いわゆる外部取引)と、減価償却、引当金または準備金の設定、評価損益などのように法人の内部的な意思決定のみによって発生する取引(いわゆる内部取引)とがある。前者は、対外的な事実によって自ずから計上すべき額及び時期が客観的に確定するのが通常であり、いわば計算の客観性、確実性が担保されているということができる。これに対し、後者は、対外的に実現をみない法人の内部の計算のみに基づくものであり、この計算を全く法人の自由に委ねるときは、計算が恣意的に行われることによって課税の公平が損なわれたり、後に変更されることによって課税関係の不安定を招く危険があるため、何らかの基準によって客観的に確定する必要がある。法人税法が、確定申告は「確定した決算に基づき」課税標準等及び税額などを記載した申告書の提出により行わなければならない(法人税法七四条一項)としながら、「外部取引」については、原則として、法人が確定した決算において費用または損失として経理していない場合にも、その元等になる客観的事実が存在すれば、損金または益金に算入することを認める反面で、減価償却などの内部取引については損金経理(法人が確定した決算において費用または損失として経理することをいう。法人税法二条二六号)を要求し、特定の外部取引に関する収益費用の認識基準〔割賦基準(同法六二条)、延払い基準(同法六三条)、工事進行基準(同法六四条)〕による経理を要求し、また使用人賞与及び寄付金については、確定した決算において利益または剰余金の処分による経理をしたときは、その損金算入を認めないなどして、いわゆる「確定決算基準」を採用しているのは、前記のような基準として、企業所有者である株主または社員の承認または同意により確定された決算を重視し、法令の範囲内においては法人が確定した決算において表示した意思決定を課税所得計算上も最終的に確定したものとして扱うこととしたものと解される。

これを消費税の会計処理についてみると、「税抜経理方式」及び「税込経理方式」のいずれを採用するかということは、前に述べたとおり課税所得算定の基礎となる事実であって、法人の意思決定のみに委ねられているのであるから、右に述べた「確定決算基準」の趣旨に照らし、いわゆる「内部取引」と同様、確定した決算において表示された法人の意思は、法令の規定に従っていない場合を除き、最終的に確定したものとして取り扱われるべきであり、これを後に変更することはできないものといわなければならない。仮に、消費税の会計方式についてのみ、確定決算後の変更を認めるとするならば、他の「内部取引」等との均衡を失するとともに、課税所得の金額に差が生じることにより、税額が一定しないこととなり、課税関係の安定性を害し、引いては確定決算基準の没却を招来しかねない。

第三争点に対する判断

一  争点(一)(控訴人が係争事業年度中に消費税を含め二〇万円以上の価額(消費税を除くと二〇万円未満の価額)で購入した減価償却資産である本件ショーケースにつき、法人税法施行令一三三条に基づきその取得価額の合計六一一万〇〇六〇円全額を損金に算入することができるかどうか。)について

当裁判所も、控訴人は、本件確定申告に係る決算において、法人税の課税所得金額の計算に当たり、いわゆる税込経理方式を適用していたものであり、確定申告後にいわゆる「税込経理方式」から「税抜経理方式」へと経理方法を変更することは許容されず、法人が税込経理方式を採用している場合には、当該減価償却資産の購入の際に支払う金額のうちの消費税相当額も購入の対価と区分せずこれに含めた経理処理をすることが相当であって、法人税法施行令一三三条に定める減価償却資産につき同条による損金算入をするための要件としての取得価額に含まれると解するのが相当であると判断する。そして、本件ショーケースの消費税相当額を含んだ価額は、オープンショーケースBIM三―一〇五型が一台当たり二〇万三四四八円、オープンショーケースBIF三―一〇五型が一台当たり二〇万三七七九円であるから、ともにその取得価額は施行令一三三条所定の額である二〇万円未満に当たらず、したがって、本件ショーケースについては、いずれも同条による損金算入の処理をすることはできないものと判断するものであって、その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決書四四頁四行目から七一頁六行目までと同一であるから、これを引用する。

1  原判決書五四頁四行目の「令第一三九条の十」を「令第一三九条の九」と、同五六頁七行目及び同六〇頁一一行目の各「会計処理の方法よる経理」を「会計処理の方法による経理」とそれぞれ改める。

2  原判決書六二頁六行目の「原告の右主張は失当である。」の次に、行を改めて、次のとおり加える。

「なお、控訴人は、前記消費税通達においても、一定の場合は税抜経理方式と税込経理方式の混用を認めているのであるから、控訴人の採用したような経理方法も消費税を通過勘定としてみる経理方法の一つとして認められるべきであるとの主張をするので、以下検討する。

(1) たしかに前記「消費税通達」の3においては、「・・・ただし、法人が売上等の収益に係る取引につき税抜経理方式を適用している場合には、固定資産、繰延資産及び棚卸資産(以下「固定資産等」という。)の取得に係る取引又は販売費、一般管理費等(以下「経費等」という。)の支出に係る取引のいずれかの取引について税込経理方式を選択適用できる・・・」等と規定しており、この結果法人が売上等の収益に係る取引につき税抜経理方式を適用した場合には、同時に支出面において固定資産等の取得に係る取引や経費等の支出に係る取引のいずれかの取引に税抜経理を適用している限り、二つの会計処理の方法の混用が認められている。

しかしながら、乙第一三号証及び弁論の全趣旨によれば、本来は税抜経理方式の場合においても売上・仕入のすべてについて統一的な取扱をするのが望ましいことであるが、会計上、貸借科目である仮受消費税が計上されている限り、仕入に係る消費税のうち資産に係るものと経費に係るものとのいずれか一方について税込処理をした場合でも、仮受消費税と仮払消費税とが両建てされることになり、その相殺により消費税を通過勘定として処理している原則は崩されず、そのような混用をした場合でも、全体として税抜方式による場合とほぼ実質的に変わらない結果となるため、会計の理念に反しない限度で、納税者の会計処理上の便宜を計り、例外的にそのような混用経理を認めたものであることが認められる(この場合でも納めるべき消費税額は、仮受消費税と仮払消費税との差額から支出されるため、納めるべき消費税額が損益に影響を及ぼすことはない。なお、収益等に係る消費税額は税抜処理し、仕入等の一部に係る消費税額を税込処理した場合には、その分の仮払消費税が計上されないことになり、仮受消費税のうち納めるべき消費税を超える分は、その分利益(雑益)となる。しかし、一方、税抜処理した場合に比べ、仕入金額等は消費税分だけ過大に計上されることになるので、利益(雑益)と仕入等の過大分が相殺され、税抜処理するのと変わらない結果となる。また、固定資産等の取得について税込処理した場合には消費税相当分が取得価額に算入されるため、課税所得がその分多くなる場合が生ずるが、納税者の側でそのような混用処理の方法を選択採用した結果によるものであるから、課税の公平の観点からの問題も生じない。)。

(2) これに対して、売上等の収益に係る取引につき税込処理をしている場合に仕入等の全部又は一部につき消費税額について税抜処理を行うという場合には、消費税の計算をする上で控除対象となる仮払消費税だけが計上されていて、被控除分たる仮受消費税が計上されないこととなり、全体として消費税を単なる通過勘定として認識したことを前提としての公正妥当な会計処理の方法とはいい難い。したがって、売上等の収益に係る取引につき税込処理をしている場合には、法人は消費税を取引の対価と区分しない経理を採用したものとの認識を示したものと扱われるべきであり、こうした場合に仕入の全部または一部についてのみ税抜処理をすることは、収益、費用の適切な対応関係を欠き、法人の損益計算上公正妥当な結果をもたらさない虞が生ずるといわなければならない。また、売上等の収益に係る取引につき税込処理をしている場合に、仕入のうち固定資産等の取得についてのみ税抜処理をするという混用処理をした場合には、純粋な税込経理方式を採用した場合と比べて、課税所得について減額の方向での相違を生じさせる結果となり、課税の公平の観点からも相当でないといえる。このため前記消費税通達においても、収益に係る消費税を税込処理した場合には税抜方式と税込方式との混用は認めていないのである。

(3) これを控訴人の行った会計処理の方法についてみると、控訴人の会計処理は、仮受消費税及び仮払消費税が貸借科目として設けられていない上、売上及び経費等に係る消費税は売上及び経費等の金額に含まれ、固定資産の購入に伴う消費税と納めるべき消費税額は諸税公課として計上しているというものであり、結局のところ、控訴人の意図を善解した場合でも、収益と経費等に係る消費税を税込処理し、固定資産の取得に係る消費税を税抜処理するという混用処理をしたのと同じ結果となっているというほかはない。そして、控訴人は、控訴人のような会計処理の方法も、消費税を通過勘定として経理する方法の一つであり、当期純利益の額は税抜経理方式による計算の場合と変わらないのであるから全体として税抜経理方式を採用したのと同様に扱われるべきであるとの主張をするのであるが、控訴人のような経理方法は全体として消費税を単なる通過勘定であるとの認識に立った上での経理処理をしていたとは到底認められないし、損益計算における当期純利益の額が税抜経理方式を採用した場合と変わらないというのも、固定資産の取得費用に消費税を含めないこと(それが税込経理方式を採用している場合には相当の経理方法とは認め難いことの理由については、原判決書六六頁六行目から七〇頁四行目までに説示するとおりである。)等をしたことによる結果的な符合にすぎないのであって、控訴人の主張はその前提に誤りがあると認められることは前記のとおりである。以上から、控訴人の経理方法は、全体として消費税を通過勘定として認識したもので、いわゆる税抜経理方式と同等のものとして許容されるべきであるとの主張は、これを採用することはできない。」

3  原判決書六五頁一一行目の「いわざるを得ない。」の次に改行して以下のとおり加える。

「すなわち、この点を補足すれば、企業会計においては、先にみた税抜経理方式または税込経理方式の性質の違いから、そのいずれの方法を適用するかによって、前提となる益金または損金の額がそれぞれ異なるばかりでなく、減価償却資産の取得価額に係る消費税額、交際費の損金不算入額に係る消費税額、卸資産に係る消費税額などの要因によって課税所得金額が異なってくるのであるから、いずれの会計方式を採用しているかということは、当該法人の課税所得算定の基礎となる事実ということができる。そして、税抜経理方式を適用するか税込経理方式を適用するかは法人の意思決定に委ねられているのであり、法人が確定した決算において表示した会計処理の方法を確定申告後に変更することは、法七四条一項の趣旨に照らし許容されないものと解するのが相当である。」

二  争点(二)(本件花輪代は、措置法六二条所定の交際費に当たるかどうか)について

当裁判所も、控訴人の業種・業態、控訴人が花輪等を贈呈した相手先の店舗の種類と数、贈呈した花輪等の規格、一基当たりの金額(一万円ないし一万五〇〇〇円)、これに取りつけられた垂れ幕や名札における送り主たる控訴人(ないし控訴人代表者)の名前の大きさと記載態様、贈呈先店舗における掲出方法などの諸点から、本件花輪等を贈呈したのは、控訴人が本件事業年度において冷凍設備等の設置工事を行った特定の店舗に限られ、宣伝目的がなかったとはいえないにしても、主たる目的は、相手先の店舗開店を祝い、工事発注に対する謝意と今後の好誼を願う交際目的であって、控訴人自身の広告宣伝が主たる目的であったとは認めがたく、本件花輪代が交際費に該当することを否定するに足りる特段の事情も認め難いと判断する。

なお、その理由は、原判決書七一頁七行目から同八三頁六行目までと同一であるから、これを引用する。

三  そうすると、控訴人らに対する本件課税処分はいずれも適法であると認められる(その理由は、原判決書八三頁七行目から八四頁四行目までと同一であるから、これを引用する。)。

第四結論

以上のとおり、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井史男 田村洋三 豊田建夫)

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